本作は、谷村志穂先生の小説です。
昭和の北海道が舞台で、主人公は、ロシアの血を引く女性・薫。
あまりに際立った美貌の彼女は、繊細過ぎる心もあり、孤独な半生を送ってきました。
そんな彼女が嫁いだのは、漁師の邦一。
逞しい身体に豪快な気性、腕利きの漁師である邦一のもとで、薫は初めて、安らぎを見つけたかのように感じますが……。
彼女の心に、いつの間にか夫の弟・広次の存在が少しずつ入り込んでいきます。
やはり漁師でありながら、教会に惹かれ、信仰を持つ広次は、薫に似た繊細な心の持ち主。
豪快な夫が気づかない、薫の心の揺れや寂しさを、いつも掬いとって、さりげなくフォローしてくれます。
広次は、薫に対して疚しい気持ちは一切持っていません。
彼女の姿と心の美しさや、あまりに繊細な性質を尊く思い、騎士のように、いつも薫を影から守ることを決意していたのです。
そして薫もいつの間にか、そんな広次に救われていたことに気付くのでした。
「不倫モノ」は大嫌いだし、肯定する気はありませんが……この作品に関しては、二人がどうしようもなく惹かれ合っていく過程や、お互いじゃないと駄目なことが、丁寧に描写されているので、違和感なく感情移入出来ます。
そして薫がとうとう広次の手を取った時、夫の邦一は激しい怒りをあらわにして……。
なぜ、先に広次と出会わなかったんだろう、と思わずにいられません。
許されない相手との恋、その結末や、さらに先の子供世代の物語を見届けずにいられません。