大江健三郎「死者の奢り・飼育」

大江健三郎と言うと、ノーベル賞作家で高尚だとか、ブンガク過ぎてこ難しいとか、そんな印象がありませんか?

確かに大江健三郎は仏文の影響を強く受けているため、文章が長く読みにくい部分があります。

けれども、だからといって読まないのはもったいない。読んでみるとなかなか世俗的で、印象が変わります。

都市伝説の死体を洗うバイトの元ネタとして有名な、表題作の「死者の奢り」も良いのですが、おすすめはなんといっても「飼育」です。

飼育の舞台は太平洋戦争末期。田舎に住む主人公の少年は、村に墜落した飛行機に乗っていて捕虜になり村の建物に監禁された黒人兵士に食べ物を運ぶ係になります。少年は、飼育するような感覚で付き合っていくのですが……という話です。

黒人兵士と少年との交流と成長を描く作品、と言えばそうなのですが、決して爽やかな話ではありません。割り切れないものが残り、まるでミニシアターのある種の良作映画のような、もやもやとしつつも心に残る読後感があります。

仏文の影響を受けた文章はねっとりとしつつも、情景を豊かに想起させてくれ、特に黒人兵士に関する描写はグロテスクと官能的の間をたゆたうようで大江健三郎の個性を強く感じさせられます。

人を選ぶ小説ではありますが、けっしてこ難しくはありません。

見終わったあともやもやする映画が大好きだ、という人には是非おすすめしたい小説です。

ノーベル賞作家とかいう先入観で忌避するのはもったいないですよ。