『まなざしの地獄 尽きなく生きる事の社会学』尽きなく続く地獄

『まなざしの地獄 尽きなく生きる事の社会学』と、タイトルにあるように社会学の本です。普段だったら絶対に手を出そうと思わない、いかにも難しそうなジャンルの本です。好きなアニメの参考資料として紹介されて居なかったらまず、読まなかったでしょう。

1968年、10月10日、殺人を犯し死刑判決を受けたN.Nという青年について、統計などを使って彼の殺人が必要に迫られ、尽きなく生きるため犯した罪だったということを解説したものになります。

この作品が、社会学という、手に取りにくいジャンルの本でありながら、ページをめくる手を止められなくなる魅力を持っていたのは、作者の見田宗介の独特のまなざしにあります。

統計の結果をもとに解説を行うときも、その結果をそのまま捉えるのではなく、意味を見出して作者独自のまなざしを持って推理を展開させていきます。

たとえば、3年以内に離職した離職者の離職理由と雇用者が聞いた離職理由を対比して紹介したとき、理由がかなり変わっていることを指摘します。

実際に、退職するとき本当の理由を職場に告げることは常識的ではない、というのが今の風潮としてもありますが、作者はそこをあえて指摘します。

この、統計の結果において重要なのは、雇用者と労働者の意見が違っているという一点で、雇用者が労働者の求めるものを知らないこと、この食い違いであると主張するのです。

私は、統計をこのように読み解くことができるということを初めて知りました。

そして、N.Nがなぜ追い詰められ、殺人を図ったのか、その理由も統計によって解き明かされていきます。

殺人は決して犯してはいけない罪だと思います。

しかし、N.Nのような殺人犯が生まれる社会を作った統計結果が実際に存在しているのは事実です。

読み終わった感想として、この統計を作った社会を構成する人間のひとりとして、自分に罪がないと言い切れるだろうかと考えさせられました。